柴犬のアトピー性皮膚炎について

アトピー性皮膚炎という病気については耳にしたことがある方も多いでしょう。日本では、柴犬で多く発症することが知られており、残念ながら根治は難しく、生涯付き合っていかなくてはならないことの多い病気です。
皮膚から環境中の物質が体内に侵入してアレルギー反応を起こしてしまう体質(アトピー体質)により発症する皮膚炎をアトピー性皮膚炎と呼びます。食物アレルギーによる皮膚炎と混同されがちですが、食物アレルギーは食物の中の抗原物質に対するアレルギー反応であり、アトピー性皮膚炎とは別の病気です。
今回は、柴犬に多く見られるアトピー性皮膚炎についてご紹介します。

1.原因

アトピー性皮膚炎は、色々な要因が複合して起こります。バリア機能の低下した皮膚から、環境中の抗原物質(アレルゲン)がとりこまれ、そのアレルゲンに対して異常な免疫反応(アレルギー反応)を起こすことで、アトピー性皮膚炎は発症するとされています。より詳細なメカニズムについてははっきりしていません。
日本では、柴犬やゴールデンレトリバーに多く発症することが知られており、遺伝的素因も疑われています。

2.症状

1歳から3歳の若い犬で多く発症します。症状の見られる部位が特徴的で、腹部や顔面(特に眼の周囲)、手足の指や指間、脇の下によく見られます。また、外耳にも症状が見られ、慢性外耳炎を起こしてしまうことがあります。
代表的な症状は強いかゆみです。また、初期は皮膚の発赤や脱毛程度ですが、慢性化していくと、皮膚が厚くなり、色素沈着を起こして黒ずんできます。さらに、脂漏といってべたべたした状態となったり、紅斑が広がったりすることもあります。
ブドウ球菌やマラセチア酵母といった病原体への感染を併発すると、かゆみをはじめとした症状は悪化します。

3.診断

一般的な診察のほか、発症年齢や症状、病変部位、基本的な皮膚科検査などからアトピー性皮膚炎を疑います。同時に、細菌や寄生虫感染症、ノミアレルギーや食物アレルギーといった、アトピー性皮膚炎と似た症状を示す他の病気でないことを確認する必要があります。これらについて確認した上での総合的な判断として 、アトピー性皮膚炎と診断し、治療を開始します。

抗体検査について耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。 現在は、様々な抗原物質に対して血液中の抗体の量を測定する検査があり、精度もあがってきています。また、その他の検査方法として、皮内反応検査と呼ばれる検査もあります。これは実施可能な施設が限られているものの、アトピー性皮膚炎の原因物質を探る際に最も信頼できる検査といわれています。抗原物質を皮膚にごく少量注射して、反応を確認することで、抗原となる物質を特定する為の検査です。
皮内反応検査、抗体検査のいずれも、アトピー性皮膚炎の原因物質を探る際の検査としては有用ですが、「アトピー性皮膚炎である」との診断を下す為に必ずしも必要なものではないので注意が必要です。

4.治療

アトピー性皮膚炎は、様々な要因が複雑に絡み合って発症する疾患です。しかもそれぞれが、根本的な解決が難しい問題です。そのため、各方面からアプローチをしていき、できるだけ症状を抑えて生活の質を維持することが治療の目標となります。治療は長期にわたり、生涯何かしらのケアが必要になることがほとんどです。
まず、感染症の併発が疑われるときには、抗生物質などでこれを治療することで症状が改善することがあります。その上でアトピー性皮膚炎に対して様々な角度からアプローチします。
アレルゲンとなりやすいハウスダストマイト(ダニの死骸を含んだ埃やちり)はできれば除去したいものです。しかし、実際には完全に除去することなどほとんど不可能ですし、掃除に神経質になりすぎては生活の質を維持することができず、本末転倒となりかねません。そのため、現実的な対応として、定期的なシャンプーがすすめられます。シャンプーにより、皮膚の汚れだけでなく付着した抗原を洗い流すことができます。実際、シャンプーはアトピー性皮膚炎のコントロールに大切な治療方法のひとつです。保湿機能のあるシャンプーを用いることで、皮膚のバリア機能を高めることも期待できます。
侵入してしまった抗原に対するアレルギー反応を抑えるためには、副腎皮質ステロイド剤や抗ヒスタミン剤といった薬剤を用います。時には免疫抑制剤といわれる薬剤を使用することもあります。ただし、こうした薬剤については漫然と使用せず、必ず獣医師の指導のもと、必要なときに必要な量を投与しましょう。
食物アレルギーを併発している場合には、「除去食」といわれる療法食に変更することで症状が抑えられることがあります。ただし、除去食による治療には厳密な食事内容の管理が必要ですので、獣医師とよく相談しましょう。市販されているアレルギー体質に配慮したフードは、アトピー性皮膚炎のコントロールに有効なこともありますが、食物アレルギーに対して処方される「除去食」とは異なるものなので注意してください。

5.予後と治療の目標

アトピー性皮膚炎は直ちに致命的な問題を起こす病気ではありませんが、根治は難しく、生涯付き合って行く必要があることがほとんどです。治療が長期にわたるため、薬剤の副作用についても問題となってきます。
アトピー性皮膚炎を発症してしまったら、薬剤の助けを上手に借りながら、できるだけ症状を抑えて愛犬と飼い主さんとの生活の質を維持していくことをめざしましょう。そのためにも、シャンプーやフードの工夫など、自宅でのケアはとても重要です。さらに、かゆみなどの症状と副作用の様子についてもよく観察し、獣医師との連携をしっかりとることも大切です。
アトピー性皮膚炎の予防は困難です。若い柴犬で、顔や腹部、指の間などに強いかゆみが見られる場合には、悪化する前に治療を開始できるよう、早めに動物病院で診察をうけましょう。